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『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』鴨志田一さんインタビュー。ガンダムシリーズとの出会いと、10年間続いてきた『鉄血のオルフェンズ』との思い出

文:米澤崇史

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 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』から、公開中の特別編集版『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』まで、10年間にわたり『オルフェンズ』に携わられる、鴨志田一さんのインタビューをお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』及び『鉄血のオルフェンズ』新作短編『幕間の楔』の物語に関する記述があります。そのため本編をご覧になってから読むことをオススメします。[IMAGE]

 10月31日より全国劇場で公開中の特別編集版『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』。

 スマートフォンアプリ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズG」にて全12話が展開されていた、スピンオフ作品『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』に新規カットを加えて再構成した作品で、さらに『鉄血のオルフェンズ』TVシリーズ第1期の後を描いた10周年記念新作短編「幕間の楔」も同時上映されています。

 今回は、『鉄血のオルフェンズ』の設定考証・脚本、アプリ版『ウルズハント』のシリーズ構成・脚本、そして特別編集版『ウルズハント』のシリーズ監修を務めた鴨志田一さんにインタビュー。

 ライトノベル作家として『さくら荘のペットな彼女』『青春ブタ野郎』シリーズを手掛ける傍ら、多数のアニメの脚本や、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 月鋼』や『機動戦士ガンダムエイト』といった漫画作品の脚本を担当するなど、様々な分野で活躍を続ける鴨志田さんに、『ウルズハント』にまつわる話からガンダムシリーズへの思い入れまで、様々なお話を伺うことができました。

『鉄血のオルフェンズ』、そして『ウルズハント』のシナリオについて


――単独での映像作品となった『ウルズハント』をご覧になられて、いかがでしたか?

 もともとアプリ版の脚本の方で携わっていたので、それが特別編集版ではどうなるんだろうという楽しみがありました。実際に映像として1本につながっているものを見ると、見応えがまた違って、とてもワクワクしましたね。

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――今作ではアプリ版の全12話のエピソードが再構成されました。

 見たいところをどんどん見せてくれる映像のつなぎになっているなと。テンポの良さをより強く感じられましたし、ある意味『ウルズハント』の美味しいとこ詰め合わせのような形で見られたのが、すごく良かったと思います。

――そもそもの話になりますが、アプリで『ウルズハント』のシナリオを担当されることになったのは、どういった経緯なのでしょうか。

 時期としては、『鉄血のオルフェンズ』本編が終わった後ですね。その時僕は、『月鋼』(外伝『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 月鋼』)の制作に携わっていたのですが、ちょうどそっちの目処がついた頃に、当時の『鉄血のオルフェンズ』のプロデューサーから「アプリで企画が立ち上がっているから相談に乗ってくれないか」という一報が来たのが最初でした。

――それでメインストーリーの構成を担当されることに?

 いえ、最初はどちらかというと、直にシナリオを書くというよりは出してもらったものが問題ないかチェックする、監修に近い立場だったんです。

 その後にアプリの試作が始まってしばらく続報がなく、まぁゲームというものは作るのに時間のかかるものですし、作品単独のアプリを作るというのは簡単ではないことは分かっていたので、もしかしたら立ち消えになってしまったのかな、と想像したりもしていたんです(笑)。

 それからしばらくして、「企画が通ったのでやります。もう一度打ち合わせをしたい」と話があり。いざ行ってみると、なんだか知らない話がいっぱい増えている(笑)。

――(笑)。

 そこから「完全新規のストーリーを1本作ることになりました」という話が出てきて、それで真っ先に思ったのは「誰が(脚本を)書くんだろう?」ということなんですが、その時集まっていたメンバーを見て、自分になるのかなとすぐに思い至ったので、「シリーズ構成をお願いします」と言われた時は「まぁそうですよね」と(笑)。

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――完全に新規でストーリーを考えるとなると、一気に作業量が増えますよね。

 そうですね。最初に話を聞いた時の想定からかなり増えました(笑)。ですが、アプリでの展開まである程度期間があったのもあって、お引き受けできると思いました。

――先にTVシリーズや『月鋼』にも携わられましたが、とはいえ、アニメや漫画、ゲームのストーリーというのは、それぞれ違うと思います。シリーズ構成を担当する難しさやプレッシャーのようなものはありましたか?

 あまりそういう意識はなかったですね。『鉄血のオルフェンズ』というタイトルの流れの中でやるということと、何よりも監督として長井(龍雪)さんがおられたので。

 長井さんが作ろうとするものを僕らが一緒に作るというのは、TVシリーズ本編の時からアプリでも変わらないスタンスだったので、そこの不安や、やりにくさみたいなものはなかったです。

――長井監督とは、どういった話をしながら『ウルズハント』を作っていったのでしょうか?

 最初に長井さんの方から、「『ウルズハント』は少しポップな方向にしたい」という話がありました。それでTVシリーズ本編と同じ世界ではありますが、別の場所の物語として方向性を変え、キャラクターのシリアス度もマイルドなラインに収める方向でストーリーをまとめていきました。

――今回の特別編集版の構成・脚本は土屋理敬さんが担当されていますが、土屋さんとは何かお話を?

 サシという形ではないんですけど、長井監督を含めた打ち合わせに一緒に参加していました。そこで議論したのは、ウィスタリオの本当に細かい口調であるとか、ちょっとしたキャラの話ぐらいだった気はします。

 だって、そもそも、アプリの段階で土屋さんが作ってくれたキャラクターもいっぱいいますから。例えば、シニステルとデキステルなんかは最初の登場話数は土屋さんが書いてくれて、「めっちゃ面白くしてくれたな」と思いましたからね。この愛すべきじいさんたちを再現しようと、土屋さんが作った二人のイメージをトレースするように書いていたくらいです。

 アニメに関しては僕よりもキャリアが長く、本当に実力のある方で、TVシリーズにも参加されていますから、安心して頼らせていただきました。

――“ウルズハント”というある種の宝探し的なアイディアはどこから出てきたのでしょうか?

 確か長井さんだったと思うのですが、「宝探しみたいなことをやったらいいんじゃないか」というアイデアを持たれていて、そこから打ち合わせしていく中で、各チームが参加するレース形式みたいな内容にブラッシュアップされていきました。

 あとは約300年前に起こった厄祭戦について、TVシリーズでは明かされなかった部分が多いので、厄祭戦に関する謎的な要素が、冒険譚と相性が良かったのも大きいですね。それでシナリオが固まっていきました。

――アプリのストーリーにする上で、普段のシナリオとは書き方の意識を変えた部分はありましたか?

 そこはあんまり考えてはおらず、基本的には映像作品を作っているつもりで書いていました。ただ、アプリではセリフが全てテキストとして表示されるので、「文字で見た時に違和感がないように」ということは少し意識していたと思います。

 あと、これは意識したというより制約に近いんですけど、毎話必ず戦闘が入るという点もありました。戦闘を始めると、戦闘が収まるまでの流れもセットで書かないといけないのですが、毎話作るのには割と苦労した記憶があります。

――アプリとはいえ、テキストだけでなくアニメの映像がふんだんに使われているのも特徴でした。シナリオの段階で「ここはアニメで」「ここからテキスト」みたいなところもイメージされて書かれていたのでしょうか?

 そこは構成の段階で「この辺をアニメにしようか」みたいな話を長井監督とした上で、概ね区分けが決まった状態で書いていました。実際にはシナリオにした段階で、「こっちにエネルギーを割いた方が美味しくないか」という話が出て、アニメにするシーンを変更するとかもありましたが、キャラクターの初登場やメカの初登場やアクションなど、「ここはみんなアニメで見たいよね」という方向性は早めに決まっていました。

『オルフェンズ』TVシリーズの思い出


――鴨志田さんはTVシリーズ本編のシナリオにも参加されていますが、今改めて『鉄血のオルフェンズ』という作品を振り返ってみていかがですか?

 もう10年経ったんだなと、とにかく感慨深いですね。TVシリーズに僕が関わらせていただいたのは、3年あるかないかの期間くらいだったのですが、ものすごく濃密な時間でした。僕自身も鉄華団のように駆け抜けたような感覚はあります。

 ただ、その後に『月鋼』や『ウルズハント』に関わっている内に気づけば10周年の企画も始まって……という流れだったので、実は完全に『鉄血のオルフェンズ』から離れた時期ってあんまりないんですよ。

――本作がヒットしたら、また新しい話が出てくる可能性も十分ありますよね。

 あるかもしれませんね。

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――最初に『鉄血のオルフェンズ』のオファーが来た時の心境はいかがでしたか?

 それはもうめちゃくちゃ嬉しかったです。この業界で仕事をしている以上、一度でもいいからTVシリーズのガンダムには関わってみたいな、という目標は漠然と持っていましたから。ただ、これに関しては巡り合わせで、自分の力ではどうしようもできない部分もあるので、難しいだろうなとは思っていました。

 そもそもアニメの脚本の仕事を始めたのは、僕が原作を書いていた『さくら荘のペットな彼女』のシリーズ構成を岡田(麿里)さんにやっていただいた時、結構ラフな感じで「脚本書いてみます?」って聞かれて「やります」と即答したのがきっかけで、その後も続けて岡田さんがシリーズ構成を担当されている作品に呼んでいただいていたんです。

 それから1年も経たないくらいのタイミングで、「もう1個入って欲しい作品がある」という話をされて、岡田さんが指で“G”って描いたんですよ。その瞬間「嘘だろ」と思って。しかも監督が長井さんという話で、最初は信じられなかったですよね。

 でも先程言った通り、アニメ脚本の仕事をやっていく上で目標の一つでもあったので、二つ返事でOKしました。後になって、もうちょっとちゃんと考えた方が良かったんじゃないかと思ったりはしたんですが(笑)、濃密な時間を過ごさせていただいて、あの時岡田さんに誘っていただけて本当に良かったなと思っています。

――『鉄血のオルフェンズ』のコンセプトを最初に聞いた時はどうでしたか? ガンダムシリーズとしては異色の作品でした。

 正直、「ビーム兵器がほぼ出てこない」「鈍器で殴り合う」みたいなコンセプトを聞いた時は、今までのガンダムと違いすぎて、あまり映像がイメージできなかったんですよ。長井さんの頭の中にあることはもちろん分かっているんですが、当時の僕はそれを完璧には理解できていなかった。

 その後、第1話の絵コンテで地面からバルバトスがバーンと出てきてメイスで殴るシーンを見せていただいた時、「長井さんがやりたかったのはこれだったんだ」と、ようやく理解が追いついたんです。その後は、『鉄血のオルフェンズ』の戦闘がどういうものなのか、頭の中でイメージしながら書けるようになった気がします。

――確かに『鉄血のオルフェンズ』の第1話は本当によく出来ていて、「これからこういうガンダムをやります」という提示がすごく明確で分かりやすかったです。岡田さんの脚本からも、脚本のすごみのような部分を感じたことはありますか?

 やっぱり岡田さんの脚本は、「岡田さんにしか書けない脚本だな」と常々思っています。人間の心情の芯を食っているというか、表面上の感情ではなく、そのさらに奥にある部分を捉えるのがすごく上手いんですよね。展開の運び方も踏まえて、『鉄血のオルフェンズ』も岡田さんならではのストーリーになっていたと思います。

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――『鉄血のオルフェンズ』で脚本を担当されて、キャラクターやMSの描写で印象に残っているところや力を入れた点などを教えてください。

 書いてて特に印象深かったのは昭弘でしたね。無骨で不器用で、三日月との関係性も、他の鉄華団のメンバーとは違っていて独特じゃないですか。昭弘は自分が戦いにおいて2番手だと意識していて、三日月側も自分が前に出つつ、必要な時は昭弘の力を借りる、みたいな。

――三日月は鉄華団のメンバーの中でも、昭弘には一目置いていますよね。共に戦っているからこその仲というか。

 ああいう関係性は見ていて好きでしたね。あとは純粋に昭弘が乗ってたグシオン(ガンダム・グシオンリベイクフルシティ)が好きでしたね。あの大型シザーズとか、最初はどう使うんだとか思ってたんですけど、実際にはすごく印象的に使われたのも良かったです。

――ご自身で脚本を担当した回の思い出のエピソードはありますか?

 仕上がり含めて印象的だったのは、第7話の“いさなとり”ですかね。

 タービンズと戦闘する回なんですが、本来は第7話でもうちょっと先まで書く予定だったんですけど、尺に収まり切らなかったんですよ。次の第8話は自分ではなく根元(歳三)さんの担当だったので、「申し訳ない」と思いながら、入れられなかった部分は第8話で書いていただきました。

 あとは、第21話“還るべき場所へ”ですよね。あそこは僕の担当回でして……。

――鴨志田さんが書かれていたんですね。

 最初にプロットを見た時、「この回は誰が書くんだろう」と思っていたんですが、自分に回ってきました。第2期からは黒田(洋介)さんなども入ってくれているので少し違うんですけど、第1期の時は、戦闘が激しくなる回が自分の担当になることが多かったので、そんな予感はしていました。

 あの回のラスト、致命傷を負ったビスケットが、それでも頑張って生きようとコックピットから這い出ようとするシーンで、いざ脚本として自分の名前が表示されると、どこか複雑な気持ちも覚えましたね。

――あのエピソードは、ファンの間でも鉄華団にとって大きな出来事だったと語られることが多いです。

 彼は鉄華団にとっても、オルガの相談相手としても唯一無二の存在だったのかなとは思いますね。

――では、『鉄血のオルフェンズ』10周年記念新作短編として制作された同時上映の「幕間の楔」ついては、ご覧になられていかがでしたか?

 「オルガがオルガしてるなぁ」と(笑)。いかにオルガが団員たちから愛されてるかが伝わってくる岡田さんらしい脚本で、ニコニコしながら見ていましたね。

 さっき話した、三日月と昭弘の微妙な関係性みたいなのも垣間見えたりして、美味しいところがいっぱい入ってるなと。

――鴨志田さんはどのタイミングで内容をお知りになったんでしょうか?

 ある日岡田さんから「できました」って送られてきたのが最初です。脚本とか絵コンテも見せてもらいつつ、完成した映像も楽しく拝見させていただきました。

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――エンディングも素晴らしかったですね。

 時間の流れみたいなのも感じつつ、いろんな感情が湧いてきましたが……やっぱり、感慨深いというのが一番近いのかなと。あとは、ライドの姿には見ていて胸を打たれました。

ザン兄弟は『ウルズハント』ならではのキャラクター


――『ウルズハント』に話を戻しますが、印象的な描写やキャラクターはありますか?

 『ウルズハント』はとにかくいろんな意味で濃いキャラが多くて……598(ゴーキュッパ)は、本編とは別の角度から、ヒューマンデブリの少年を描けたのは良かったと思っています。

 あとは、いろんな意味で無茶苦茶な、ザン兄弟も書いていて筆が乗りました。あれは『ウルズハント』だから登場させられたキャラクターだと思います。

 デザイン面ではタマミとかもインパクトが強くて、全体的に濃いキャラが多かったなと思います。

――主人公のウィスタリオについてはいかがでしょうか?

 前向きに未来を捉え、自分の夢を実現するための困難にも立ち向かっていける、主人公らしい主人公だと思います。ただ、それを“現実が見えてない”みたいに見えないように、部分部分で芯を食っているようにな言葉は残せるようにと、言葉の強さみたいなものは意識して書いていたかなと。

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――主人公としては、結構達観しているところがあるなという印象もありましたが、三日月にもその傾向がある気がします。

 三日月の達観ぶりは「オルガのために」という筋が決まっているんですが、ウィスタリオはちょっと違っていて、彼は金星で生まれているのでIDすら持っていなくて、ある種「世界に存在が認められてない」ものとして自分を捉えているところがあり、それが結果的に達観しているように見えているのかなと思います。

――そういった点では鉄華団と重なるところもありますね。

 そう思います。だからこそ、ウィスタリオは鉄華団の活躍を見た時に「自分にもできるんじゃないか」と触発され、より「ウルズハント」に参加する決意を固める形になったのかなと。

――主人公機であるガンダム・端白星や、モビルアーマーと戦っていたガンダム・マルコシアスについてはいかがでしょう?

 マルコシアスに関しては、最初にアプリの試作をする段階で、「どうせならメカデザイナーさんに新規デザインしてもらったMSをアプリ上で動かしてみよう」となって、それで鷲尾(直広)さんに描いてもらったのがマルコシアスなんですよ。

 なので、実は設定よりも先にデザインの方が上がっていたんですけど、それを主人公機に使うのはあまりにも強そうだなと(笑)。

 そこでまずは端白星が、今回の主人公ウィスタリオの駆るMSとして登場することになったんです。

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――『ウルズハント』の登場キャラクターとしては、ロンド・ブロンは敵対はするものの、悪人ではないんだろうなというのも感じて、個人的に印象的なキャラでした。

 カチュアがイシュー家に縁のあるキャラという設定が固まった時、ならカルタの関係者もいた方がいいだろうと。

 親衛隊を外れてもカルタへの忠誠心は本物で、そういう意味では悪い人ではないんですけど、カルタが叶えようとした夢を叶えることが自分の使命だと思いこんでいる、ありがた迷惑な存在ではあるかもしれません(笑)。

――ウィスタリオへの思いや彼らの関係性についても伺えますでしょうか。『ウルズハント』でも家族のような関係性というのは重要な役割を果たしていて、鉄華団とも通じるところがありますよね。

 そうですね。特別鉄華団の存在を意識していたわけではないんですけど、ウィスタリオたちは、自分たちの存在を世界に認めさせるという夢に向かって一蓮托生の仲間意識みたいなものを持っているので、家族のような強い絆や繋がりは自然と生まれているだろうと。寄せようとしたわけではなく、自然と近いテーマを扱っていたという感じですね。

ガンダムシリーズとの出会いや、想い出深い作品とは


――現在ガンダムエースで連載中の『機動戦士ガンダムエイト』でも原作を担当されたり、ガンダムシリーズとの関わりも増えられていますが、鴨志田さんがガンダムと出会われたタイミングはいつだったのでしょうか?

 僕は78年生まれで、ガンダムより1歳年上なんです。当然ファースト(『機動戦士ガンダム』)が初めて放送された時には見れていなくて。

 世代的には『Zガンダム』『ガンダムZZ』の頃なんですけど、ファーストは再放送をいっぱいやってて、小学生の頃に朝にやっていたのを見て、その後に『Z』や『ZZ』に入っていった流れでした。

――小学生だった頃に『Z』や『ZZ』を見て、内容は理解できていましたか?

 いやもう、単に「ガンダムかっこいい」としてしか見てなかったですよ。

 『Z』って、子供の言い方で言えば、ファーストでは連邦が“いいもの”、ジオンが“悪もの”だったのが逆転してたりするんですけど、そういうこともまったく理解できてなくて、ただただメカがカッコいいという部分だけを楽しんでいました。「また殴られてるなぁ」みたいなぼんやりとした印象はありましたが(笑)。

 小学校の中学年くらいになって、少しずつエゥーゴとかの用語も分かるようになってきて、その後『逆襲のシャア』をやる時に、ようやくファーストからの一連の流れを把握できたような記憶があります。

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――それでガンダムにハマったと。その上で思い入れが深い作品はどれになりますか?

 それも子供の頃に見ていた『Z』『ZZ』になりますかね。あとはやっぱり、さっきも挙げた『逆襲のシャア』でしょうか。ファーストから続くアムロとシャアの因縁みたいなの含め、ガンダムシリーズの世界観というものを初めて理解できたタイミングでもあり、『逆襲のシャア』があったらこそガンダムにハマったと言えるので。

 それまでは数あるロボットアニメの一つとして見ていたのが、ちょっとガンダムは肌触りが違うかもしれない、ということを初めて感じさせてくれた作品でした。

――シリーズ全体で見て、好きなキャラクターやモビルスーツはいますか?

 子供の頃はクィン・マンサが好きでしたね。アニメの中の活躍云々ではなく、純粋にロボットとして好きだったって感じなんですが、当時『ガチャポン戦士』っていうSDガンダムのゲームシリーズがあって、そのゲームの中でクィン・マンサが強かったんですよ。それで好きになって。

 あとゲームでハイ・メガ・キャノンが強かったという理由で、ZZガンダムも好きでした。

――先生はご自身の作品も含め、SFを多く手掛けられている印象があります。やはりSFというジャンルに思い入れがあるのでしょうか?

 そうですね、SFはもちろん好きですが、思い返せばやっぱり入口はロボットアニメをよく見ていたことですね。僕の子供の頃は、まだロボットアニメがたくさん放送されていた時代だったので、そこからSFにも興味をもって、SF小説も結構読みました。

――具体的に、好きな小説はありますか?

 『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン)は好きでしたね。『青春ブタ野郎』シリーズを書いているので、なんとなく影響が想像できる人も多いでしょうけど(笑)。

――最近は、とくにライトノベルはファンタジーに人気が集まっている印象も受けます。SFを書く上で時代にあわせて意識されていることはありますか?

 なるべく今の時代の人たちが食べやすい形にして提供するということは意識しています。やっぱり、分からないものってどうしても面白く感じるのは難しいので、そこはなるべく分かりやすい形にしようと。

 それが結果的に、科学的に嘘をつく形になってしまったとしても、仕方ないと思って書いています。正しいことも読者が誰も理解できなかったら意味がなくなってしまうので。

――そういう意味だと、『逆襲のシャア』ってやっぱりすごい作品だったなと。

 確かに、基本的に説明をしないですからね。自分も理解しようと何回も見直して、その度に新しい発見があるのがすごいと思います。

――先生はアニメ、漫画原作、小説と幅広くシナリオに関連したお仕事をされていますが、アニメの脚本を経験したからこそ視界が開けたみたいな部分はありますか?

 あまり無駄なことは書かなくなった、というのはあると思います。やっぱりアニメだと、脚本に書いたものは全部絵にしないといけないので、僕以外の人の労力がかかるんですよね。これが小説だと、ちょっとシーンを増やしても僕が書いたものがそのまま出るだけなので、誰かの手を煩わせることにはならない。

 アニメだと、ほんの些細な台詞一つでもワンカット増やさないといけなくなったりして、そうなると原画、動画、撮影、音入れとあらゆるスタッフさんの力が必要になってくる。なので、「これは本当に必要なのか?」という自分の中でのジャッジを自然とするようになった気がします。そのあたりの経験は今関わっている『機動戦士ガンダムエイト』でも生きていますね。

――最後に、今回の映画の見どころや、ファンへのメッセージをお願いします。

 まず「幕間の楔」の方に関しては、久々に鉄華団の懐かしい顔にいっぱい会えますし、それでいて彼ららしい一幕がたくさんあるので、それを楽しんでほしいなと思います。

 特別編集版『ウルズハント』に関しては、『鉄血のオルフェンズ』という世界の中で、別の場所にはこんな人たちもいたんだということ、またちょっと味の濃い目の面白い人たちがいっぱい出てくるので(笑)、その中で好きなキャラクターを一人でも見つけてくれると嬉しいです。

作品概要


■タイトル
特別編集版『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント -小さな挑戦者の軌跡-』
同時上映『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』10周年記念新作短編「幕間の楔」

■公開:2025年10月31日(金)
■配給:バンダイナムコフィルムワークス

■INTRODUCTION(ウルズハント)

 ――P.D.323

 ギャラルホルンによるアーブラウ中央議会への政治介入事件は、モビルスーツを使った武力行使にまで発展。事件を終結に導いたのは、鉄華団と呼ばれる火星から来た少年たちだった。

 金星に浮かぶラドニッツァ・コロニーで生まれ育ったウィスタリオ・アファムの耳にも、鉄華団の活躍は届いていた。

 火星との開拓競争に敗北した金星は、四大経済圏も興味を示さない辺境惑星。住人はIDすら持たず、今は罪人の流刑地として使われるだけ。

 そんな生まれ故郷の現状を変えたいと願うウィスタリオの前に現れたのは、「ウルズハント」の水先案内人を名乗るひとりの少女だった。

 「おめでとうございます。あなたは『ウルズハント』の参加資格を得ました」

 少女との出会いにいざなわれ、ウィスタリオはコロニーすら易々と買うことのできる莫大な賞金を懸けたレース……「ウルズハント」の入口に立たされていた。

■INTRODUCTION(幕間の楔)

 クーデリアの護衛任務をやり遂げ、アーブラウ代表指名選挙を巡る戦いの中で一躍名を上げた鉄華団。その名は圏外圏全域にまで知れ渡るほどだった――。

 火星に帰還した鉄華団はより組織を拡大させるため、強行な手口も使いながら、その歩を進めていた。

 そんな中、団長として慣れない仕事にひとり奮闘するオルガの姿を見て、三日月たち鉄華団の面々はあることを思いつく。

■STAFF
企画・制作:サンライズ / 原作:矢立 肇 富野由悠季
監督:長井龍雪 / 特別編集版構成・脚本:土屋理敬 / シリーズ監修:鴨志田 一 / 『幕間の楔』脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン原案:伊藤 悠 / キャラクターデザイン:千葉道徳
メカニックデザイン:鷲尾直広 海老川兼武 / 『ウルズハント』メカニックデザイン:形部一平 篠原 保 寺岡賢司
チーフメカアニメーター:有澤 寛 / 美術デザイン:須江信人 伊良波理沙(ウルズハント)
美術監督:清木亜夕 若松栄司 / 色彩設計:菊地和子 / 3DCGディレクター:山崎嘉雅
撮影監督:後藤春陽 / 編集:丹 彩子 / 音響監督:明田川 仁 / 音楽:横山 克
製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス

■MUSIC
オープニングテーマ(ウルズハント):Re:End 「The Over」

■CAST(ウルズハント)
ウィスタリオ・アファム:生駒里奈 / デムナー・キタコ・ジュニア:堀内賢雄 / コルナル・コーサ:上田麗奈/
レンジー・ダブリスコ:木内太郎 / カチュア・イノーシー:田中美海 / 598:三瓶由布子 /
タマミ・ラコウ:伊藤 静 / ローム・ザン:稲田 徹 / アイコー・ザン:山根雅史 /
コウゾウ・メンドウ:松本 忍 / シクラーゼ・マイアー:野島健児 / ロンド・ブロン:浜田賢二

■CAST(幕間の楔)
三日月・オーガス:河西健吾 / オルガ・イツカ:細谷佳正
ユージン・セブンスターク:梅原裕一郎 / 昭弘・アルトランド:たくみ靖明 / ノルバ・シノ:村田太志 / ナディ・雪之丞・カッサパ:斧 アツシ
クーデリア・藍那・バーンスタイン:寺崎裕香 / アトラ・ミクスタ:金元寿子


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