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『サイレントヒルf』ネタバレありインタビュー。fの意味や没ネタ、1周目エンドのあの言葉など、考察のヒントと一部の“答え”を竜騎士07に聞く

文:Ak

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 『SILENT HILL f(サイレントヒルf)』の開発者インタビュー記事をお届けします。

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 今回のインタビュー記事では、ストーリーインタビューの前半を掲載。なお、ストーリーインタビューの後編や発売後の反響やミーム化、バトルシステムなどに関しては別記事でインタビューしていくので、そちらも合わせてご覧ください。

※この記事には『サイレントヒルf』の重大なネタバレが含まれます。全エンドクリア後に読むことをおすすめします。

岡本 基コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)所属のプロデューサー。『サイレントヒル』シリーズ統括プロデューサーとして短編作品の『SILENT HILL: The Short Message』や、リメイク版『サイレントヒル 2』、『サイレントヒルf』などを手掛ける。

竜騎士07ゲームクリエイター、シナリオライター。同人サークル“07th Expansion”の代表として『ひぐらしのなく頃に』(2002年)や『うみねこのなく頃に』などの作品を手掛ける。『サイレントヒルf』で、ストーリー制作全般を担当。

Al Yang『サイレントヒルf』ゲームディレクター。本作の開発を担当するNeoBards Entertainmentに所属。

“f”には4つから5つの意味が込められている【サイレントヒルfインタビュー】


――発売前から話題になっていた本作タイトルの“f”ですが、これにはどのくらいの種類の意味が込められているのでしょうか?

岡本
これについては、具体的な意味についてはユーザーのみなさんの想像に任せたいとことですが……発売後に予想以上に“f”という単語の予想が色々出ていましたね。

竜騎士07
私たちが“f”として想定した意味は、4つぐらいです。

Al Yang
4つか5つぐらいです。

――意外と少ない印象ですね。では、ユーザーの間で予想された“f”のうち、とくに意外だった単語はありましたか?

Al Yang
“ファイター(fighter)”ですね(笑)。

岡本
あとは鉄パイプの形が“f”だという予想も面白かったです(笑)。

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――そもそもタイトルに“f”を付けたのはなぜなのでしょう?

竜騎士07
最初に“f”をつけてくれたのは岡本さんのアイデアですよね?

岡本
そうですね。

竜騎士07
私は初期段階では“f”についてはピンときていなかったんです。実は私自身、名前をつけるセンスに自信がないので……わりとお任せしたところがあります。

 そうしたら岡本さんに、「何の“f”だろう」というところから入る、1つ仕掛けのあるタイトルにしてもらえました。

岡本
実際プレイしてもらえば、「あ、これは“f”は“何とか”って意味なんだろうな」って、皆さんそれぞれひらめくんでしょうけど、みんなで一斉に言ってみたら、結構バラバラになっちゃうんじゃないかな。4つじゃ収まらないかもしれません。

 でも、多くの皆さんが思っている“f”はちゃんと含まれていると思ってもらっていいと思います。

Al Yang
最初に“f”というタイトルを聞いたときは、確かにワクワクしました。色んな意味が隠されているのだろうなと。

竜騎士07
タイトルもそうだけど、情報の出し方が上手でしたね。ムービーが限定して出る中で、毎回新情報が含まれるような。

 あと、上手に既存のセリフを配置して誤解させるところもでしょうか。順番が変わるだけでだいぶ違いますからね。今見ると本当に騙しが入ってるな、この予告って……本当によくできてました。

――トレーラー制作はどのように進めたのですか?

竜騎士07
KONAMIさんの方で、プロモーション戦略を練って進めた形ですよね?

岡本
そうですね。社内のプロモーションチームと、あとCHOCOLATE Inc.さんという、トレーラーを得意とする会社のお力です。そこに牧野監督という『サイレントヒル』シリーズ好きの映像監督がいらっしゃって、一緒に作っていきました。

――ティザートレーラーでは、シリーズでこう象徴的な「トゥルルル」というメインテーマも流れていましたね。

岡本
元々は使う予定はなかったのですが、『サイレントヒルらしさ』を出したいなと思って入れました。試しに和風にアレンジしつつ使ってみたら、意外と馴染みましたね。

“獣の腕”のシーンなどでは痛みの表現をごまかすことなく伝えたかった【サイレントヒルfインタビュー】

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――“獣の腕”の儀式のシーンなど、本作は描写も踏み込んだものが多い印象でした。表現規制的にはスムーズに通ったのでしょうか?

竜騎士07
そこは、私の強い希望もあって通してもらいました。『サイレントヒル』シリーズの一番の表現というのは、心の痛みを具象化できる世界なんです。物書きが言うことじゃないんですが、心の痛みって思っている以上に10人が10人一様に受け取れるわけじゃないんですよ。学校の1クラス30人いたら、2、3人は読み取れていないんです。

 これは読解力の問題ではなくて、人間の感性や性格によって、心の痛みの受け止め方が変わってくるからだと思います。ところが『サイレントヒル』という世界では、それを具象化して表現することによって、100人が100人その心の痛みを理解できるように描くことができる。それが私は『サイレントヒル』の一つのとても興味深い個性だと思うんです。

 だから、あの世界で雛子が悩んでいることや痛みを表現しようとしたら、このぐらいの痛みが必要だというのを、私の方で強く提案させていただきました。審査機関が入ることはもちろん分かっていますけど、私の方からは審査機関の方々にも、この痛みの表現をごまかすことなく、マイルドな表現や逃げた表現を描いたら、彼女たちの痛みが伝わらない。だからなんとかこの痛みを伝えていただけないか、ということを言った記憶があります。結果的にはKONAMIさんの方で通していただけました。

岡本
実はKONAMIとしても、CERO Zレーティングのタイトルは今回が初なんです。

 KONAMIの長い歴史の中でも初めてではありますが、やはり踏み込んだ表現をすることが本作においては重要だという認識を持った上で、社内的にも理解していただいて、初めてのCERO Zレーティングで出させていただきました。

『サイレントヒル』ファンの“咀嚼力”と考察の深さに驚かされた【サイレントヒルfインタビュー】

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――どこまでが現実世界で、どこまでが精神世界かという境目が曖昧なのも『サイレントヒル』シリーズの特徴ですが、本作ではファンの間でもどこまでが精神世界か考察が分かれている印象です。考察のヒントをいただければと思います。

竜騎士07
すごく当たり前の話ではありますけど、たとえ精神世界の出来事であっても、何もないところから妄想して考えているというわけではないんです。現実にあった出来事であったりとか、何らかの意味合いは必ずあります。たとえ全部あれが幻想だったとしても、その幻想が生まれるためには、その幻想で感じたような出来事は現実に起こっていたわけなので、そこを透かし見ていただければと。

 少し私のファン向けの言い方をすると、“猫箱”の中身を内側からの光で透かされている影のように見て、想像していただければと思います。

――1周目エンドの警察無線で“20代女性”という描写がありましたが、あれがかなり重要になるのかなという気がします。

竜騎士07
そうですね。これはもう答えちゃっていいと思うのですが、つまり、雛子はあの時点で精神世界では高校生の姿で描かれているけれども、実際は20代の女性であるということですね。

 彼女にとって多分、人生の選択の大きな節目、もしくは自分の中で感じる人生の分岐路、よくも悪くも葛藤があったころが彼女の中では高校生ということで、ああいった描写になったのだと考えていただければと思います。

――嫁入りを迷う側の雛子が高校生というのは分かるのですが、嫁入りを決めた側の雛子も高校生の姿だというのが考察では迷うところだと思います。

竜騎士07
そうですね。あの頃に雛子の内側に色々あって、ふと2つの自分が同時に存在したというような風に受け取ってもらうのもひとつの見方ではないかと。ちょっと私もここは踏み込みにくいですね。

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――それはつまり、●●●●●●を飲んだ時期に関係が?

竜騎士07
そこはみなさんで色々考えていただければ。私の中にはもちろん一つの答えはありますが、ただ、それはわざわざ書くことじゃない。皆さんの中で考察して、皆さんの方が真意を汲み取っていただきたいです。

岡本
“猫箱”は開けないで残しておくと(笑)。

竜騎士07
多くの方が考察をされていて、非常に興味深いところまで見てくださっている方々もいます。私がこの仕事を受けた最初の頃、『サイレントヒル』シリーズファンの読解力……私がよく使う言葉を使えば“咀嚼力”がどのくらいあるのかを考えていました。私の昔ながらのファンであれば、もちろん信用して迷わずに表現していたのですが……。

 いろいろと話しているうちに、私が思っている以上に『サイレントヒル』の世界中のファンは顎の力が強いと感じました。どんな直球を投げても、必ず受け止めて噛み砕こうと挑戦してくれる。これは結構厳しめに勝負しても大丈夫だなと。とはいえ本気で勝負しすぎると今度は混乱してしまう人も現れてしまうので、そこは考えましたが。

 『サイレントヒルf』には分かりにくい描写も入れ込んだつもりでしたが、それでもけっこう細かいところまで入ってきたり、私でもあえて具体的にしていなかった部分について、かなり高い解像度で考察してきている人もいらっしゃいました。やっぱり『サイレントヒル』のファンの方々を信じて良かったと思わされました。

岡本
やっぱり非常に長尺の動画とか、多数の考察動画を作られている方もいらっしゃって、多分こちらの想像以上に深く読み解いていただいている方が多いなと思っています。

――キャラクターごとに真相を読み解く動画が多数投稿されていますよね。

竜騎士07
そうですね。YouTubeで配信しているVTuberさんなんかも、プレイ時間よりもその後の語りの方が長かったりして、それがすごく嬉しいことです。やっぱり語るのが楽しい部分があるかなと思います。

 とくに海外には『サイレントヒル』シリーズのファンサイトが今もあって、古典の作品の今も色々議論して、その後に出た作品との関連を付けて色々意味合いを考えているところも見られます。そういうガッツのある方々に受け止めてもらえたことは、ものを送る、ボールを投げる側としてはとても嬉しいことだと思っています。

初期案では従来の『サイレントヒル』のように教団が暗躍するアイデアもあった【サイレントヒルfインタビュー】


――本作には宗教的な要素も入ってきますが、狐の嫁入りや付喪神信仰など、日本人は自然に理解できると思いますが、海外の方の反応はいかがでしたか?

竜騎士07
私もそこは興味がありましたが、私の下手な翻訳能力では理解しきれないと思います。初期案では、従来の『サイレントヒル』のように日本にいる教団が暗躍するような、文字通り日本版『サイレントヒル』のようなアイデアも考えていたんですよ。

 ただ、岡本さんと初期案を考えるにあたって、日本を舞台にしている以上は、日本でしか書けないものを書くべきだと。それならばと、私はもうガッツリ稲荷信仰など、日本ならではの神話を取り込んでいこうという決意をしました。

 もちろん、『サイレントヒル』シリーズファンなら海外の人たちも、神話もきっと咀嚼してくれるはずという、私からの期待や信頼もあります。きっと、彼らであれば受け止めてくれるという。

岡本
海外と日本では宗教観が違うところがあって、これまでの『サイレントヒル』ではキリスト教圏の、いわゆる絶対神がいるような宗教観で作られているところがあります。

 今回、舞台が日本になって、やはり八百万の神……多神教の世界なんですよね。ギリシャ神話や日本神話の神々は、どちらかというと人間に近い、感情を表すところが特徴的です。そこの宗教観の違いというところも含めて楽しんでいただけると。

 一部、どうしても『サイレントヒル』の神はこういう神だ、と思う方がいらっしゃるとは思いますが、西洋の神と東洋の神は違うので、東洋の神の宗教観で作っているというところが、逆に“f”の特徴かなと思っています。

竜騎士07
ギリシャ神話のおかげで、欧米の方々にはそういう角度から理解してもらえているところもあったかもしれません。

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――神様同士の関係性や、民衆の信仰がどんどん移り変わっていくところは、なかなか海外の方からすると理解しにくいかもしれませんね。

岡本
難しいところですよね。水龍から始まり稲荷信仰へと移っていく「救ってくれるなら誰でもいいや」みたいな考え方とか、祟りの考え方は日本独特のものですので。

竜騎士07
一方で、神様側から見ても、信仰してくれないなら人間なんかどうでもいいと思っているのが本音のようにも思えます。

 日本の神様って別に人を助けようと思ってやっていないっぽいところがありますよね。敬ってくれるからリターンを返しているだけで、リスペクトがないなら「俺は知らないよ」みたいな気分。なんか神というよりも上位勢力に過ぎないというか。

――上位者というかクトゥルフというか、そんな感じですよね。

岡本
そうですね。結局、神様が変わっても領主様が変わることと同じような感覚で、そこで生きる人間の生活が大きく変わるわけではなく、そこにどう合わせるかみたいなところですね。

竜騎士07
そういうところは本家『サイレントヒル』シリーズとは違う、日本を舞台にしたからこその日本らしさを出そうという部分の、日本色の一つの表現部分だったかなと考えています。

――かなり解像度の高い土着信仰をテーマにされていますが、どんな参考文献が?

竜騎士07
お稲荷様やお狐様をテーマにしようと思った時点で、そちらの角度から色々調べていきました。

 あとは日本の古い神様って何だろうとか、私なりに色々解像度を上げていって、ああいう形になっていったのかなと。

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――ロケハンのようなこともされたんですか?

岡本
ロケーションという意味では、今回岐阜の下呂市金山町を参考にしました。もちろん僕も行ってきましたけれども、『サイレントヒル』観光もすごく増えていて、自治体の方にも喜んでいただけています。

竜騎士07
それなら良かったです。本当に。

岡本
やっぱり金山町という場所からインスピレーションを受けた部分はありましたか?

竜騎士07
岐阜の方に、この取材の一環で行った時に「金山っていう面白い通りなんだよ」って言って紹介されて、観光協会の方に筋骨巡りを案内してもらったらすごく面白くて、これはネタになると思って取らせていただきました。

 『サイレントヒル』シリーズというのは舞台も一つの要素で、毎回ユニークなところで作られています。架空の街でももちろんありではありますが、やっぱり本当にある街というと、リアリズムが一つ違うんです。そういう造形はものすごく生かしてもらえたなと思いました。素晴らしいマップを作ってくださってありがたかったです。

―――実際に町中にも稲荷が多く、水周りも水神様や飲み水、生活用水や橋も多いです。30分歩くだけでも、ゲーム中の印象的なシーンがいくつか見つかりますよね。

竜騎士07
ゲームで実際に3Dマップを歩けるからこそ、実際に歩いてみると「もう歩いたことある」みたいな感覚になると思います。聖地巡礼もすごく楽しめるかと。

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