【サイレントヒルf】修には修の地獄があり、別のサイレントヒルで戦っていた？竜騎士07インタビューで謎多き咲子を考察するヒントも（ネタバレあり）

文：Ak

公開日時：2025年12月10日(水) 10:50

最終更新：2025年12月10日(水) 11:11

　『SILENT HILL f（サイレントヒルf）』の開発者インタビュー記事をお届けします。

　今回のインタビュー記事では、ストーリーインタビューの後編を掲載。なお、ストーリーインタビューの前編や発売後の反響やミーム化、バトルシステムなどに関しては別記事でインタビューしていくので、そちらも合わせてご覧ください。

※この記事には『サイレントヒルf』の重大なネタバレが含まれます。全エンドクリア後に読むことをおすすめします。

岡本基：コナミデジタルエンタテインメント（KONAMI）所属のプロデューサー。『サイレントヒル』シリーズ統括プロデューサーとして短編作品の『SILENT HILL: The Short Message』、リメイク版『サイレントヒル 2』や『サイレントヒルf』などを手掛ける。

竜騎士07：ゲームクリエイター、シナリオライター。同人サークル“07th Expansion”の代表として『ひぐらしのなく頃に』（2002年）や『うみねこのなく頃に』などの作品を手掛ける。『サイレントヒル f』で、ストーリー制作全般を担当。

Al Yang：『サイレントヒルf』ゲームディレクター。本作の開発を担当するNeoBards Entertainmentに所属。

『サイレントヒルf』ネタバレありインタビュー。fの意味や没ネタ、1周目エンドのあの言葉など、考察のヒントと一部の“答え”を竜騎士07に聞く

2025-12-03 10:50

『サイレントヒルf』岡本プロデューサー×Al Yangディレクター×竜騎士07インタビュー。雛子さんや狐面の男のミーム化など、発売後の反響を受けた感想は？（ネタバレあり）

索引

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「嘘だっっっ！！！！」などのファンサービスは開発会社が入れ込んだ【サイレントヒルfインタビュー】

―――「嘘だ！」など『ひぐらしのなく頃に』っぽい演出もありましたが、あれは竜騎士07先生が入れたサービスなのでしょうか？

竜騎士07

いえいえ、私は雇われの身ですよ。そんな自己主張の強いことはできません（笑）。

岡本

あれは、開発チームのサービスだったんですよね。

Al Yang

「嘘だっっっ！！！！」などは、NeoBards Entertainment側の遊び心でちょっと入れたかった要素です。入れるにしても、どこでどんな風に入れるかということをいろいろ計算して、何とかうまい形で収まりました。

竜騎士07

会議の時に「嘘だっっっ！！！！」の黒板があったのを見てはいて、「まさか入らないだろう」と思っていたら、本当にゲームに入っていてビックリしました（笑）。

Al Yang

イースターエッグを入れ込むにしても、やはり『サイレントヒル』なので、雰囲気を壊したり、プレイヤーをゲームから引き離すようなものは入れられません。

岡本

「嘘だっっっ！！！！」の黒板だったり、ほかの作品を彷彿させるような演出は色々考えていたのですが、あくまでも作品の世界観の中で成立するようなものしか入れられないということを徹底していました。

　ファンであれば気づくような印象もあるかと思いますが、あくまでも世界観の中で成立して、雰囲気をより高められるような形でしか使えないようなものだけを実際に入れています。

――黒板の「嘘だっっっ！！！！」の上の写真がAl Yangさんだったような気が……？

Al Yang

あれについては、私自身もテストプレイで初めて見て机がひっくり返るくらい驚きました（笑）。NeoBards Entertainmentの開発チームは遊び心があって、ゲーム中の写真は実はチームメンバーの写真を使っていることが多いんです。ほかにUFOポスターなど、町にある写真の多くは実際にチームメンバーが描かれています。

――まさか、竜騎士07先生の顔もどこかに入っているのですか？

竜騎士07

ファイル“霊刀の伝説”で、帽子をかぶった後ろ姿の民俗学者の絵があるんですが、あれは私に見えたような気がするんですが、どうなんでしょう？

Al Yang

当初は竜騎士07先生の、帽子をかぶっている正面からの顔写真を入れようとしたんですが、テストプレイでそれがあまりにも目立ちすぎて、世界観が壊れるというか、没入感が途切れてしまったので取りやめました。そのかわりにファンなら気づけるような形のものだけにしています。

竜騎士07

確かに私の顔が入っていたら一発で気づきますね（笑）。

Al Yang

テスター全員が「知っている顔だ」と気づいてしまったので、世界観が壊れると判断しました。

――ほかにも具体的にスタッフ名の仕込みはあるのでしょうか？

Al Yang

ウサギの飼育小屋にあった“ウララ”というのは、NeoBards Entertainmentで翻訳・通訳を担当された方の名前です。こっそり仕込んでいました。

岡本

岡本水産さんだけかと思ったら、そんなところにも……（笑）。

竜騎士07

実はそういった仕込みに関しては、私も入れています。私の昔からの癖なんですが、作中の登場人物の名字に、その時お世話になった相手の名前を使っているんです。将来作品を読み返した時に、誰と一緒に仕事をしたかの「スペシャルサンクス」的なものとして。

――深水家に帰ったときの岡本水産からの電話は、2周目以降もずっと台詞が変わらなくて印象的でした。

竜騎士07

「岡本水産でございます」と晴れやかな声で水産業者が電話してくるあのシーンは、一見すると不可解ですが、その後の寛太（雛子の父）が宴会で魚を捌くシーンとつながっています。おそらくですが、あの電話は精神世界の外側からかかってきているものなのでしょうね。

――確かにシリーズ内でも電話の描写は重要ですよね。『サイレントヒル3』でも、コードの切れている電話が鳴っているのが怖かったです。

竜騎士07

ありましたね。私の中でも『サイレントヒル』は電話が鳴って、受話器を取った後に誰が出るのかという恐怖は印象的でした。あれこそ『サイレントヒル』ファンには味わっていただきたい感覚だと思っています。

咲子と凛子には本編で描かれなかった側面がある【サイレントヒルfインタビュー】

――咲子がボスとして出現した時の姿が天照大御神に似ているなど、謎が多いですが、彼女についてのヒントをいただければ。

竜騎士07

みなさんが面白い考察をされているので、私の方から水を差すようなことはとても言えませんが……。やはり太陽というのは神話的なことを考えるまでもなく重要なのだと思います。千年杉でも、太陽の光がなければ植物は育ちませんし、日本でも最高神はやっぱり太陽神ですしね。

　不敬なことをした人に対して祟りで殺すことができるぐらいの力を持っている神様を相手にしても、咲子は一目置かれるような立場にあったのか、あるいはオカルト的には“そういった力”があったのかもしれません。作品が違えば、咲子が主人公で雛子がヒロインみたいなポジションもあったかもしれないですね。

――『ひぐらしのなく頃に』の梨花みたいな感じで、視点が変わったら主人公になりそうですね。

竜騎士07

仮に本作が私が07th Expansion（竜騎士07先生の同人サークル）で出しているサウンドノベルで何本も出るシリーズだったら、4本目あたりには咲子が主人公の咲子編があったかもしれません（笑）。

――咲子のほかに、凛子も印象に残るキャラクターでした。

竜騎士07

凛子は本編においては少しきつい表現が多くて、ヘイトが溜まりやすいキャラだと思っているんですけど、手帳の中にも登場するんですが、「3回喧嘩して、3回絶交したけど3回仲直りした」というところにぜひ着目していただきたいです。

　本編の中ではきつい言動が多いので、雛子と凛子は普段から仲が悪いような印象がありますが、実はそんなことはありません。雛子が感情を露わにしてぶつけ合って大喧嘩して、また何回も仲直りできるぐらい、実は本音を語り合える友人だったというところに注目してほしいんです。

　凛子は“f”の世界ではあるバイアスがかかっているので、どうしても凛子にヘイトが溜まるように描かれてしまっていますが、本来はすごく全力でぶつかってくれる、雛子にとっても大切な友人の一人なのは間違いありません。

――UFOエンドでは、普段の仲のよさが感じられるようなシーンもありました。

竜騎士07

UFOエンドは初期案ではもっと宇宙戦争みたいな、UFOを倒すみたいな話でしたが、書き直してああいうエンディングになりました。

岡本

UFOエンドは歴代『サイレントヒル』シリーズでもお祭り的なノリなので、本編の鬱々しさを吹っ飛ばす頭のおかしい内容にするために、思い切りはっちゃけた内容にしました。

――漫画を使おうというアイデアはどんな風に出てきたのですか？

Al Yang

学校の謎解きを考えていた際に、初期案として、漫画の単行本を学校のあちこちに置いて、それをもとに謎解きをするという竜騎士07先生からのアイデアがありました。結果的には謎解きには使えなかったのですが、UFOエンドの話になった時に、従来の『サイレントヒル』のUFOエンドは基本的に静止画を重ねているもので、アニメーションではないことが多かったので、漫画形式はぴったりではないかと思い、ここで“漫画を使う”というアイデアを採用しました。

　1960年代あたりの著名な漫画家を参考にして、竜騎士07先生から頂いたUFOエンドの展開をそのまま漫画化しました。エンディングの構成もビジュアルも音楽も含めて、非常に良い出来になったと思います。

竜騎士07

あの時代らしい、いい雰囲気の絵柄にしていただきましたね。あれがバリバリの萌え絵だったら、本編と一致しなくなってしまうので、あれで良かったと思いますよ。日本らしさがよく出ていると思います。

修は修で違う世界でバケモノと戦っていたと思って欲しい【サイレントヒルfインタビュー】

――修や寿幸など、男性キャラクターの名前の由来やキャラクター造形についてお聞かせいただければ。

竜騎士07

名字については思い出せないのですが、寿幸については狐側のイメージがあったので、その感じを名付けたようなところがあります。修（しゅう）は最初は同じ漢字で“おさむ”という読み方も検討したんですが、ちょっと昔っぽすぎて感情移入できないかなと思って、今っぽくてかっこいい読み方にしました。あの時代だったら絶対“おさむ”だったでしょうね。わりとサッと、あまり珍しすぎない名前にしようと名付けた記憶があります。ほかにも当時、ノベル的なテイストで世界観を捉えようとしたこともあったので、ちょっと意識したところもあったかもしれません。

――修は基本的には良い人なのですが、微妙に「ん？」と思うところもありますよね。あのあたりのキャラクター造形についてお聞かせください。

竜騎士07

修は、雛子の結婚に関して、雛子が結婚を蹴るか蹴らないかを明らかにしなかったのもあって、半分結婚に乗り気なようにも見えてしまっていたんですね。そのせいもあって、修も結構自暴自棄な時期になっていると劇中でも書かれています。

　その自暴自棄になった後しか書かれていないので、修は非常に怪しい……本人の同意なく服薬させてくるような怖いキャラクターになってしまっていますが、それでも雛子自身がずっと彼に対する感謝を忘れていない。雛子と修が出会って10年ぐらいの間で、ずっと彼女に寄り添ってきた相棒であるということは、本編ではなかなか描かれていないですが、そこはぜひ加味していただきたいなというところがあります。

　今は寿幸人気がすごいですが、これが『ひぐらし』みたいに次の第2話が書けるなら、今度は修の人気が上がるようなシナリオを書き直せたらいいですね（笑）。彼が約10年間、どれだけ雛子に寄り添ってきたか、雛子もそれにどれだけ感謝しているかというのは、今回の物語の前日談になると思います。修がどれだけ彼女を支えてきたか、修がいなかったら、この日の雛子は全く別人だったかもしれない、壊れて別のものになっていたかもしれないということも考えていただきたいです。

――“寿幸が知っていた雛子”について、DLCなどで知る機会はあるのでしょうか？

岡本

小冊子や漫画など、いろいろな形があると思うので、何らかの形で外伝だったり後日談だったり前日談だったりと膨らませていけたらいいなという思いはあります。

――竜騎士07先生が先ほど言及された修視点の「サイレントヒル f』なども、ファンとしては見てみたいです。

竜騎士07

そのときはスタイリッシュアクションで、役に立つ修をお見せしたいですね（笑）。実は一番最初に書いたプロットには「一緒に行くぞ、相棒」みたいな感じで、修と同行する案もあったんです。ただNPCと同行するのは開発的に大変だったので、シナリオ的に違和感のない形で今の形に落とし込みました。

　すぐに同行しなくなる修や寿幸について、ファンの間ではいろいろと言いたいこともあるかと思いますが、実は彼らは頼もしいつもりでやっているんです。男が女性より先に行って、道を拓いていくという価値観が、あの時代の男の一般的なものですよね。そこは、男女の価値観の違いだと思います。

　ただ、雛子目線で見ると「いや戦闘に行かなくていいから一緒に歩いてほしいな、いつもいないじゃない」というすれ違いがあるのかもしれません。

――そうなると、修目線だと全然印象が変わりそうですね。

竜騎士07

あくまで本編は雛子目線で描かれた『サイレントヒル』なので、男たちはいつも頼もしそうなことを言って先に行ってしまって、一緒に戦ってくれないという風に見える。勇ましいことは言うけど、苦労するのはいつも女性だよねという風に、雛子の目線では描かれています。

　だからこれを修を中心にした『サイレントヒル』にしたら、また違うと思いますよ。「俺はこんなに苦労しているのに……」という感じで。そうなると、エンディングのひとつには必ず“雛子と心中する”ものがあると思いますね。「お前のことを愛しているのは俺だけなんだ。俺をどうして見てくれないんだ」って。本編では雛子の地獄だけが描かれましたが、実際には修には修の、寿幸には寿幸の地獄があったのだと思っていただければ。

――『サイレントヒル2』でも登場人物それぞれが自分の精神世界を歩いていましたが、あれと同じようなイメージでしょうか？

竜騎士07

まさにそうです。各々の地獄があって、各々の目にしか見えていない。クリーチャーが例えいたとしても各々の目線で違うものに見えている可能性も大いにあります。あの霧の地獄だって、各々によって見え方が違っている可能性はあります。だからあそこで雛子だけが苦しんでいる、雛子だけがかわいそうだという考えは、見方としてはまだ半分だけかもしれないですよ。

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