集英社ゲームズから5月28日に発売されるNintendo Switch/Steam用ノベルアドベンチャー『シュレディンガーズ・コール』のレビューをお届けします。

『シュレディンガーズ・コール』は、21ナノ秒後に終焉を迎える世界で、世界最後の話し相手として生と死の狭間で彷徨う魂たちの心残りに寄り添っていくノベルアドベンチャーゲーム。
京都のインディーゲーム開発チーム・Acrobatic Chirimenjakoが開発を手がけ、集英社ゲームズがパブリッシングを担当。Steamのウィッシュリストが10万件を突破した注目作です。
ここでは、終章までクリアしたノベルアドベンチャー好きライターのレビューをお届けします! 世界最後の話し相手とは具体的にどのようなことをするのか、どんな出会いが待っているのかを紹介していきます。
本記事には世界最後の話し相手としての体験を損ねるような情報、核心的なネタバレはありませんが、体験版より先の物語に関する記述や画像が含まれているのでご注意ください。
現在、第1章をプレイできる体験版がSteamで配信されています。「お話する猫がいる!」「絵本のようなグラフィックがステキ」「21ナノ秒後ってどういうこと」など、可愛らしい登場人物たちや謎多き世界観などが気になった方は、ぜひ予備知識なしに体験版や本編の世界に飛び込んでいただきたいです。

なお、電撃オンラインでは尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
彷徨える魂に寄り添う“世界最後の話し相手”
本作の舞台は突如として月が落ち、21ナノ秒(10億分の1秒)後に終焉を迎える、生と死が重なり合った状態の世界です。
そんな世界で、電話が置かれた不思議な部屋にたどり着いた1人の少女。部屋にいた言葉を話す猫・ハムレットは、彼女をメアリと呼び、“世界最後の話し相手”として死にきれない魂を電話での会話を通して救うように告げます。

メアリは過去の記憶を失っており、世界で何が起きているのかも、何をすればいいのかもわからない、プレイヤーと同じまっさらな状態です。そのため、ハムレットが何者なのかわかりませんが、その言葉に従うことになります。

ハムレットは気まぐれで謎も多いですが、おしゃべりで、お茶目な言動を見せるかわいい猫です。尻尾を振ったり、足で頭をかいたり細やかなアクションも多く、しかも1つ1つの仕草がキュートです。

また言葉の端々からメアリへの気づかいも感じられて、「悪い猫じゃないんだろうな……」と序盤から信じたくなる存在でした。私が猫派っていうのも、大きな要因なんですが……。

ハムレットの言葉に従って電話の受話器を手に取ったメアリは、無数の魂の声を耳にします。ちなみに彷徨える魂ではありますが、怨念に満ちたものではなく、ホラー的な要素はないのでご安心ください(ゾクッとする展開はありますけど)。

無数の魂たちに信念を問われたメアリ、2つの選択肢から、どちらか1つを選ぶことになります。
ちなみに第1章の問いは、「自分だけで生きていける」か「誰かのために生きていたい」。ほかの章も、自分自身と向き合い何を選ぶか考えさせられる問いばかりです。

選択肢は物語の展開を変えるというよりも、メアリの考えを表すときに選ぶことが多い印象。選択によってプレイヤーの気持ちが反映される機会も多く、序盤は意識していなかったのですが、章を進めるごとにその意味が大きくなり、より物語に没入、登場人物たちに深く感情移入するという体験ができました。

メアリが自分の信念を示したことで、電話の先にいる相手が誰か確定して、その人物の番号を入手し、電話ができるようになります。その人物たちは、月が落ちる直前まで大切な人と電話していましたが、それが未完了のまま世界が終わりかけていて……。

“メアリがメアリである理由”を探すため、その電話の相手を救えというハムレット。

メアリは電話の相手の世界最後の通話=未完了通話を聞き、心残りの手がかりを得ます。そして彼女は電話で相手と話し、ときに過去を調べ、想いに寄り添って、彷徨える魂を救済していくことに……。

1章ごとにメアリが向き合う会話の相手が変化しますが、全員が大切な人との関係に心残りを抱えています。多くの人が考えたことのある悩み、大切な人に向ける信頼、愛情など、共感でき、心の柔らかい部分に触れる展開が多く、何度も涙腺を刺激されます。
終わりが確定している世界なんですが、救われてほしい人ばかりなんですよ。


また未完了通話の持つ意味が、それぞれ絶妙に違っていて、「そういうことか」と何度も驚かされました。

クリアに必要な時間は各章2時間ほど、私は電話相手のことや物語の先が気になって、各章一気にクリアしてしまいました。
ゲームはオートセーブで、いつでも受話器を置くことができ、自分のタイミングで物語に向き合えるのもうれしいところです。
最後まで、相手に寄り添うこと
彷徨える魂を救う方法は、とにかく電話でお話をすること! クラシカルな電話を使って、話したい相手の電話番号を入力することで通話することができます。メールやメッセージアプリが充実した令和の時代に、黒電話のダイヤルを回すのは、新鮮な経験でした。
ちなみに、相手からかかってくることもあります。

記憶喪失のメアリほどではありませんが、生と死の狭間にある彷徨える魂たちも、過去の記憶が曖昧になっています。そのため前に話していたことを忘れてしまっていることや、曖昧なことも多くて……。

メアリは電話で聞いたことを手帳にメモして、情報を整理していきます。メアリは情報をイラストつきで記録するのですが、とても上手で、わかりやすくイメージしやすいんですよね。
手帳のイラストは時系列に合わせて描かれており、絵本を見るように、通話相手の過去を振り返ることができます。

通話時、メアリが記録した情報について相手に教えたり、質問したりすることができます。それによって相手の記憶が呼び起こされ、未完了通話や心残りに関するヒントを集めていくことが可能です。
私は相手の反応が興味深かったので、とりあえず聞ける話は、全部聞きながらプレイしていました。制限時間はないので、じっくり相手と対話できます。
各章、伏線を張りつつも予想外の展開が用意されていて、ミステリーとしてもおもしろい物語になっています。


さらに通話相手のことを知っていくと、その関係者に電話できる“関係因子番号”を手に入れることができます。複数の人物から話を聞くことで、情報量が一気に増え、通話相手が知らない情報が手に入ることも……。
なお“関係因子番号”で話せる人物たちも、かなり個性的でおもしろい人物たちぞろい。コメディ展開も多く、通話していてとても楽しいです。


電話の相手が抱えた記憶は優しく、幸せなものだけではありません。調べるなかでメアリは、相手の“触れてはいけない記憶”に、必ず接触することになります。相手はネガティブな思考のループに囚われてしまうので、“心に触れる言葉”を投げかけて救い出してあげましょう。
制限時間はないのですが、万華鏡のような映像演出と疾走感のあるBGMの影響で、何とも言えない緊迫感が……。必要な情報は手帳にあるので、確認しながら、確実に言葉を紡いでいってください。

メアリは最後の通話相手になれるだけあり、気持ちに寄り添える人物。最後まで、どうすれば相手に寄り添えるかを考えます。そして、ある特別な方法へ辿り着くのです。
その特別な方法で、通話相手を救っていくメアリ。自分の取った行動が正しかったのか、迷いを抱えながらも前に進んでいきます。
メアリの行動には、しっかりとしたメッセージが込められていて、いろいろ考えさせられます。

メアリだって、救われてほしい
序盤は、淡々と役目をはたしている印象があるメアリ。しかし、いろいろな人と通話をするなかで、生き生きとダジャレを言ったり、笑顔を見せたり、メアリらしいなと感じられる部分が見えてきて……。
ハムレットとの軽妙な掛け合いも見せてくれて、関係の変化も微笑ましかったです。



終盤では、頑張るメアリに感情移入し、彼女自身も幸せになってほしいと願うようになっていました。
各章でメアリの失われている記憶について断片的に語られるほか、作品全体を通して、彼女自身の物語もしっかりと描かれています。
プレイ後は、大切な人と電話して声が聞きたくなりました。世界が終わる前に、後悔するようなことがないように……。
メアリが迎える結末を、ぜひ皆さんも見届けてほしいです。

