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人口オーナス時代のエンタメ業界について。出版業界の様子を振り返ってみる【佐藤辰男の連載コラム:おもちゃとゲームの100年史】

文:佐藤辰男

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連載コラム“おもちゃとゲームの100年史 創業者たちのエウレカと創業の地と時の謎”第29回

第7章 人口オーナス時代のエンタメ業界 7-1 出版業界の苦悩とメディアワークスの設立

 この連載の第6回で言及した“人口オーナス時代の失われた時(1995年以降)”に触れなければならない。今回は、人口オーナスについて改めて説明しておこう。少子高齢化が進むことで生産年齢人口(15~64歳)に対して従属人口(14歳以下の人口と65歳以上の人口の合計)の比率が上昇し、経済にとってマイナスに作用する状態をさす。

 さて、そのころはどんな時代だったか記憶を振り返ろう。

 1995年1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災が関西を襲った。自分の生きている時代の足元が、これほど不確かなのかと戦慄した。この年の幕開けは暗く重かった。追い打ちをかけるがごとく、3月20日には地下鉄サリン事件があった。

 ちょうど事件が発生した時間、当時は四谷にあった文化放送でラジオドラマの打ち合わせを終えたぼくは、当時神保町にあったメディアワークスの事務所に帰るため、タクシーに乗ろうか地下鉄の駅まで歩こうか迷っていた。よく覚えている。そんなところに折よくタクシーが来たので乗りこむと、やがてラジオのニュースが事件の速報を伝え始めた。地下鉄に乗っていたら、無差別テロの餌食になっていたかもしれないと、背筋に悪寒が走った。

 そのころのぼくは、設立して2年余のメディアワークスの経営に四苦八苦している最中で、潰瘍性大腸炎にたびたび苦しんでいた。

 出版業界の国内市場の推移を、『出版指標年報2023年版』(出版科学研究所)から拾えば図のような体たらく。1996年をピークにずっと減少している。なんと言っても少子化、それにインターネットの普及による情報のフリーミアム化、スマホの普及による若者の時間消費、金銭消費の多様化が影響していると言われている。2014年に一時的に回復しているのは、電子書籍、とくにコミックの電子化への対応が、大手を中心にうまくいったからだ。

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 1990年代半ばから顕在化する、日本の経済の変調“内需の縮小”を的確に分析して見せてベストセラーとなった本が、藻谷浩介の『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川書店、2010年)だ。

 “国内の書籍・雑誌の合計売上の減少”(96年をピークに減少)だけじゃない。“国内新車販売台数の減少”(1990年をピークに下降線、特に96年以降が激しく落ち込んでいる)、“国内の小売業の売上の減少”(96年をピークに減少)、“国内貨物総輸送量の減少”(2000年をピークに減少)、“国内酒類販売量の減少”(2002年から減少、ビールだけなら97年から減少)、“日本人の一日1人当たりのたんぱく質や脂肪の摂取量の減少”(95~97年をピークに減少)、“日本人1人当たりの水道使用量の減少”(97年をピークに減少)、といったことが90年代半ばから起きていた。これらの現象を同書は“日本経済を蝕む『内需の縮小』という病気”と診断した。

 その原因は“人口の波”――具体的には生産年齢人口(15歳から64歳の現役世代)の減少によるとし、これまで戦後一貫して増加してきた生産年齢人口がピークアウトした1995年を、その節目とした。

 生産年齢人口の減少=非生産年齢(0歳~14歳と65歳以上)の増加となるわけだが、少子化のなかでの非生産年齢人口の増加は、とりもなおさず老齢年齢人口の増加を意味し、それは、生産年齢に属する人々のような旺盛な消費を終え、お金を使わない、エネルギーを使わない人々の増加を意味するから、需要不足、消費者不足の時代となる。景気の波と関係なく、国内の消費市場の未来にわたる縮小を同書は予告しており、一読後、暗澹(あんたん)とした気分に襲われた。

 同書は、日本列島に居住する(外国人を含む)人々の年齢別の推移を、戦前から未来まで長期にわたって掲載している。読者には、棒グラフで表したその変化を、スクロールして目で追っていただきたい。

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 団塊と団塊ジュニアの2度のピーク後の一貫した少子化、生産年齢人口の減少と裏腹の後期高齢者(藻谷は敢えて高齢者=65歳以上ではなく、後期高齢者=75歳以上の数字をここで掲げた)人口のすさまじい増加に、いささかたじろぎませんか?

 生産年齢人口が、1995年から縮小の一途をたどり、そのことが『内需の縮小』という病気の始まりだったという藻谷の指摘は、徹底的に国内産業である出版界で、国内の書籍・雑誌の合計売上が、96年をピークに減少を続けることと当然リンクしている。

 1996年には、書籍の販売金額が1兆931億円だったのに対し、雑誌の販売金額は1兆5633億円で雑誌が書籍に対し1.5倍の規模だったことをまず認識してもらいたい。

 さらにその減少具合については、例えば10年後の2006年には書籍が9326億円の14.7%減であるのに対し、雑誌は1兆2200億円の22%減で、書籍より雑誌の落ち込みが激しい。雑高書低と言われた出版界にとってこれは痛手で、主に雑誌に支えられてきた大手出版社の経営を直撃した。いわゆる小集講(小学館、集英社、講談社の出版大手3社)が、この時期から今に至る長期低落の坂道を下ることになった。

 さて、次回も少々出版業界のお話に付き合っていただき、その後おもちゃ業界について見ていこう。
【毎週火曜/金曜夜に更新予定です】

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